幼稚園児と保育園児の眠りの比較について


  幼児の眠りの研究を行うようになったきっかけですが、これまで私は、睡眠に関する研究をいろいろ行ってきたのですが、その中の一つとして、赤ちゃんの眠りのリズムがどのように発達するのかについて研究をしていました。そこで、次は幼児の眠りの研究をするのが自然かなと思っていたこともあり、当時は教育学部の教員だったので、なんとなく使命感のようなものもあったのかもしれません。
  それから数年たって、自分の2人の子どもが一年間だけですが、保育園に通うことになりました。下の当時3歳のこどもが朝、保育園に行くのをとても嫌がって、その理由を聞くと、眠くもないのに寝かされるのが嫌だというのです。
  子どもはお昼寝をするものだという感覚が、なんとなく皆さんの中におありだと思います。当時の私も一般の方の感覚とほとんど違わず、下の子は早熟なところがありましたので、この子特有のことだと最初は思いました。
  ところが調べていくうち、幼児期にはお昼寝をする子がどんどん減っていって、小学校入学ぐらいまでにほとんど昼寝は消失してしまうということがわかりました。普通の発達にしたがえば、昼寝はこの時期、少なくとも小学校入学前には取らなくなるのですが、保育園では寝かせ続けているわけです。
  これは言い方を変えれば、幼児期に人工的にお昼寝を取らせた場合にどうなるかという実験を国家的なスケールで行っているにも等しいことです。また、お昼寝の機能が科学的に検証されないまま、自然の発達経過と異なる生活習慣が多くの幼児に課されている状況にも、疑問を感じました。そこで、幼児期の眠りの発達を幼稚園児と保育園児で比較しようと考えたわけです。
  調査の結果、幼稚園児と比べると保育園児は平均で約30分入眠時刻が遅いことがわかりました。それ以外にも、幼稚園児と比べて朝の寝不足感が強く、朝の機嫌も悪く、園への行き渋りも頻繁で、夜ふかしで寝つきも悪いという結果でした。保育園児の入眠時刻が遅いのは、以前から指摘されていましたが、両親が共働きで家庭が夜型化しているからだろうとされていました。しかし、私たちが行った調査によれば、幼稚園児の母親と保育園児の母親とで夜、眠る時刻に差はなく、母親の眠る時刻とその子どもの眠る時刻との間の関係性もまた、認められませんでした。
  したがって、保育園児に夜ふかし傾向が見られる理由は、家庭の夜型化以外に求める必要があります。また、成人を対象にした実験研究でも午後に長いお昼寝を取ると、夜の眠りで寝つきが悪くなったり、浅くなったりすることが知られていました。
  そこで私たちは、幼稚園児がお昼寝をした日と昼寝をしなかった日の間で、前日の睡眠時間とその当日の就床入眠時刻に差があるかどうかを調べてみました。その結果、お昼寝をした日の前夜の睡眠時間は、お昼寝をしなかった日の前夜と比較して差がありません。このことによって、前夜の寝不足を補うためにお昼寝をしているのではないということがわかります。
  また、お昼寝をした日のその夜の入眠時刻は、お昼寝をしなかった日と比べて約30分遅くなっていました。つまり、午後にお昼寝をとると、約30分寝るのが遅くなってしまうということです。しかも、この約30分という差は、幼稚園児と保育園児の就床入眠時刻の差と同じでした。
  これらの事実から、私たちはすでにお昼寝が必要ではない子どもにも無理に昼寝を取らせることが、夜ふかしや日中の心身の不調に結びつくのではないかと考えています。
また、小学校にあがり、実際にはお昼寝を取らなくなった後も、元・保育園児たちは小学校四年生くらいまで夜ふかしが続くということもわかって来ました。幼児期の強制的なお昼寝の習慣は、かなり後まで影響を及ぼすと考えられます。
 お昼寝は、発達に伴って6歳になるまでにほとんどのお子さんが取らなくなる現象です。とはいえ個人差があって、3歳でも眠らない子もいれば、5歳でもよく眠るこどももいます。お昼寝を止めるかどうかは、ひとりひとりのお子さんの様子を見ながら決めないといけないと思いますが、だいたい目安としては4歳になったら、寝ない子は無理に寝なくても良いということにしてはいかがでしょうか?